・直接基礎建物の液状化による沈下評価に関する考察 ほか
構造物の設計基準にかかわる地盤力学・地盤工学を中心に、
地盤の数理モデルを構築し、実験やシミュレーションによる検証・考察を実施しています。
地盤工学/地震工学/計算工学
1994年名古屋大学工学部土木工学科卒業、1999年名古屋大学大学院工学研究科地圏環境工学専攻博士課程後期修了、博士(工学)、2005年独立行政法人港湾空港技術研究所地盤構造部研究官に就任。2008年株式会社竹中工務店に入社、同社の技術研究所の主任研究として地盤工学の研究に従事。2021年より千葉工業大学創造工学部教授に就任
地盤力学を専門分野として、地震時に発生する液状化現象の解明とその対策、軟弱地盤に建設した構造物の地盤沈下予測、地震時における杭と建物の相互作用、港湾構造物の安定性などといった研究を行ってきました。
取り組んできた研究の1つに、地盤の応力変形挙動のモデル実験があります。例えば、土地開発を行う場合、崖崩れや出水などの災害を防止するため、地盤の改良や擁壁の設置が行われます。特に高低差のある土地は地盤自体の重力、高い方の土地の上に載る建物の荷重ほか、地震や土の中に溜まった雨水により生じる水圧や浮力など、さまざまな力がかかることで地盤が変化して擁壁が傾いたり、壊れてしまったりする危険性があります。
地盤が沈下したり、すべったりする要因はすべてこの地盤作用にあるので、地盤内の応力変化が地盤と接する構造物や地盤自体に与える影響を研究し、倒れない擁壁の厚みや地震に対して適正かといった検証を行って、研究結果の施工開発への活用を推進しています。
2021年より新天地となる千葉工業大学に赴任し、今までの研究を引き続き行いながら、地盤に関する新しい研究にも積極的に挑戦していこうと思っています。
磯部氏と知り合ったのは、地盤の解析・設計法を研究する「tji地盤解析研究会」をきっかけとしています。この研究会は、磯部氏の名古屋工業大学時代の恩師、中井照夫先生(現名誉教授)が主宰される研究会で、2013年に設立されました。中井氏が中心となって開発した“Subloading tijモデル”を改良・普及させることで、地盤解析手法の発展、その実現のための活動を理論面かつ人材育成面から支援することを目的としています。同研究会に私も参加させていただいていて、色々な研究を進めていく中で、めざす目的を同じとする磯部さんと共同で取り組んでいこうとなりました。
建設土木工事を安全かつ効率的に行うためには、地盤に関わる様々な知識や技術が必要となります。地震や災害で構造物が壊れたり、想定外なことが起こったりすることをいかにして防ぐかということを私たちができる範囲で最大限の努力をして、地盤の変形から破壊までを説得力を持って説明するには、予測能力の高い構成モデル実験が欠かせません。
例えば、地下鉄がすぐ近くを通っている地下に新たな建築物を建設する工事では、周辺の建物に影響がないように施工中の地盤の動きを予測する必要があります。とはいえ工期やコスト、周辺環境の問題もあり、事前の詳細な地質調査が困難な場合も多いため、地盤の状態を模擬して、地質を解析することになります。それがより高い精度のモデルで検討できれば、設計を最適化しながら施工を進めていくことも可能となり、事故の起こりにくい、安心で安全な世の中になっていきます。私たちも、磯部氏も、地盤災害の軽減を通じて災害国日本に貢献していきたいという思いがありますので、この分野に力を入れて共に研究していこうと考えています。
鉄やコンクリートなどの人間がつくる人工物と違って、地盤は自然がつくったものですから、人は自然メカニズムに即して自然とうまく共生しながら、いかに害がでないようにやっていくかという考え方が正しいと思っています。過去何万年にもわたって存在してきた地盤に、人がつくった建物を支えてもらっているのであって、その支持の仕方を間違えると、建物が地震で壊れたり、土砂で崩れてしまったりします。台風や地震の発生なども自然現象ですし、自然災害と戦うのではなく、自然の地盤と共に生きていく。そのためには自然の動きを人が理解し、予測する必要があり、地盤工学という学問の中で、ありとあらゆる知見を活かしながら向き合って、安全に暮らしていけるように知恵を絞りながら前に進んで行くことが重要になると思います。
東日本大震災の教訓からか2011年以降、地盤の数値解析への意識は高まってきているものの、関係者すべてが地盤の数値解析に取り組んでいるかというと、まだそこまで一般化していないですし、社会的な要請も低いのが現状です。数値解析が一般化している建造物のように、地盤という下地に対する数値解析の重要性ももっと広めていくべきだと思います。
地盤を解析できる地盤技術者が少ないことも課題です。地学教育を履修した若者を優秀な技術者として育てていくため、数学や物理、地学が得意で興味のある学生に大学以降、より専門的な知識や技術を学んでもらうよう、技術者の卵となる学生の発掘、および育成にも力を入れていきたいと思います。キャリアパスの明示的な整備はもちろんですが、社会に必要不可欠な数値解析ながら、まだ「本当に必要なのか?」と疑問に思っている人が少なくないため、まずは誰でも知っていることが実は数値解析で回答できる事を示してあげることで、地盤工学の問題解決能力や運用能力を人々に納得させる説得力につながっていきます。
技術者仲間を増やし、皆で一丸となって社会に役立つ研究をやり続け、地盤を解析することが当たり前な社会となることをめざしたいです。
磯部氏は業界や社会情勢にも精通されていますので、ぜひ地盤工学や数値解析の有用性を、日本社会のみならず海外へも広くアピールして欲しいです。未だ旧い体質や、しがらみが残る業界の閉塞感を打破するために、ご自身が立派な地盤研究技術者でありながら会社も営まれて経営人としての側面も持つ磯部氏は小規模経営ゆえにしがらみもなく、専門とする分野以外との有用な関係性を築かれていることでバランスのとれた判断を下せる貴重な存在です。
IMAGEiと私たち大学研究室が共同で課題に取り組むことで、様々なシーズ技術を社会のニーズへマッチングさせていくことも可能です。地盤工学における産・官・学の連携の積極的推進のためにもIMAGEiが社会から期待され、注目される存在であり続けることを期待して、地盤工学が社会から頼りにされる専門分野の一つとして、広く認知されることを願っています。