RESEARCH

研究活動


KYUSHU UNIVERSITY

「防災と自然保護」

・地盤工学の観点からみた持続可能な気候変動の適応策

・廃タイヤのリサイクル材を用いた抗土圧構造物の耐震補強工法に関する研究
・タイヤチップを免震材として用いた基礎地盤の改良効果
・タイヤチップおよびその砂との混合土の動的変形特性および地震応答特性 ほか

地盤工学的な防災対策を通じて、現在起こっている、あるいは未来に起こり得る災害や環境保全体制を整備することを目的とした共同研究を行っています。

九州大学 ハザリカ ヘマンタ教授

研究分野

地盤工学/防災地盤工学/建築システム工学

PROFILE

1991年インド工科大学(IIT,Madras)土木工学科卒業。大学時代、振動に対する研究を行なっていたことで、地震が多い日本に留学し、地震に関する研究を行う。1996年名古屋大学大学院工学研究科博士課程修了。現在、九州大学大学院工学研究院教授。工学博士

 

地盤工学を通して防災および環境保全に貢献

リサイクル材を活用しながら「防災」と「環境保全」を両立させるレジリエントなインフラ開発の研究を行っています。この2つは別々ではなく、環境問題も防災も合わせて捉えていかなければいけないと考え、磯部氏と長年にわたりタッグを組んで共同研究に取り組んでいます。なかでも注力しているのが「廃タイヤのリサイクル」です。

産業副産物である廃タイヤの処分は、大きな社会問題となっています。海外に比べて処分する場所が少ない日本では、国内で発生した廃タイヤの半数以上が切断・破砕され、石炭や石油などの代わりに燃料として用いられています。しかしながら熱資源として利用するサーマルリサイクルは、どうしてもCO2や熱の放出、焼却灰の発生などによる環境への影響が懸念されます。そのため廃タイヤのリサイクルは、サーマルリサイクルに比べてCO2の排出量が約1/4となるマテリアルリサイクルへの転換が求められています。

そこで当研究室は磯部氏と協力して、産業副産物のマテリアルリサイクルとしてタイヤチップを活用した「地震発生時の振動吸収効果を検証する研究」や「海面最終処分場の海底粘土層の損傷を防ぐ研究」などを行っています。タイヤチップの変形挙動は、地盤の解析とは少し違うので、難しいところではあるのですが、磯部氏には現場的な着眼点で考察いただいています。

防災に関する研究では、タイヤチップの液状化抑止効果と高いダンピング性能、振動吸収性能に着目し、地震時の地盤の液状化防止と免震効果を図り、地震に対する社会基盤の安全かつ経済的な設計・施工と、廃タイヤの再利用の両立をめざしています。

海面最終処分場では産業副産物からつくりだしたタイヤチップの環境保全への再活用を目標としています。海面最終処分場では、底部の粘性土を遮水層として利用している場合が多く、この粘性土は自然由来の堆積層であるため、処分場の堆積物の負荷や大型廃棄物の落下により粘土層が破れてしまう可能性があります。そこで処分場に廃棄物を投下する前に、タイヤチップを先行投入して粘土層の上に敷くことで、廃タイヤの再利用と廃棄物の衝撃から粘土層を守るという2つの利点を見出しました。またこれら以外にも、タイヤチップの地震時の高速道路の盛土の崩落防止対策への活用に関する研究を行っています。

製作した大型の三軸試験機で挙動を確認

〇液状化対策の検証

地震発生時に見られる液状化現象を再現し、同じ建物で比較してみると、
対策がされていない場合は液状化し、30mm以上沈下
タイヤチップを敷く対策をすることで沈下幅は2〜3mmから5mmまで減少

〇振動吸収効果の検証

地震の外力による振動を50〜60%、場合によっては70%の振動を吸収

用途や目的により多様な可能性を秘める
タイヤチップのポテンシャル

タイヤチップには、軽量・高い圧縮性・防振・防音効果などを有していて、他の天然材料と組み合わせることによって高耐震性がある経済的な地盤材料や、粘り強さと高排水機能を有する新しい地盤材料にもなる可能性があります。

廃タイヤ(タイヤチップ)の特徴

(1)粒子密度が土石よりも小さい軽量材料である
(2)粒子が弾性的な圧縮性を有する
(3)断熱性が高い・保温性を有する
(4)防振・防音効果がある
(5)自然環境に有害な物質を溶出しない※短期的検証

今後、持続可能な社会を形成していくためには、製品や技術の基盤となる「材料」の環境配慮が重要です。地球上に限られた量しか存在しない天然材料だけに頼るのではなく、そこに人工的なリサイクル材料、タイヤチップを組み合わせることで、天然材料の使用を抑える側面もあり、コストを削減できるメリットもあります。

私たちは自然破壊の防止とコスト削減をめざして現在、タイヤチップの土圧構造物への適用に関する色々なアプリケーションを考えています。例えば、ヒマラヤ山脈南麓に位置するネパール連邦民主共和国など山の多い国は、道路整備はいまだ進展途上にあり、土砂災害に弱い状況です。その対策として礫を大型の箱状擁壁にし、所定の高さまで積み上げて擁壁を作っているのですが、擁壁の裏込めにタイヤチップを混ぜる施工を提案すれば、タイヤチップがクッション材としての機能を発揮して、地震によるエネルギーを吸収することで土圧を低減させ、護岸の変位を低減、落石防止にもつながります。海外でも循環型経済を発展させる費用対効果の高い方法としてタイヤチップの様々な研究が進められています。維持・補修がメインになってきている日本の建設土木業界にも大きな利用価値があります。ただし廃タイヤ、タイヤチップを地盤材料として適用する際には、自然環境のみならず生物環境への影響を明らかにしておくことが不可欠となります。タイヤチップを入れた地盤の地下水の分析研究・検証を同時進行で続けながら、私たちのタイヤチップに関する研究結果が少しでも防災・減災、環境保全に貢献できることを願っています。

~防災・減災、環境保全に関する研究の一例~
・タイヤチップを擁壁の裏込めに用いた場合の擁壁にかかる土圧の低減メカニズム
・擁壁の裏込めにタイヤチップを設置した時の地震時の擁壁 安定性の評価

地盤の危険性に応じたソフト対応策
自然災害を予測の力で防災・減災に

地震災害や火山災害、河川の氾濫や浸食などの水害、地すべり、土砂崩れ、雪崩、津波、液状化や地盤沈下などもそうですが、全ての自然災害の原点は地盤にあります。雨や風、地震などの自然の力が、いろいろな地盤に作用し、地盤が崩れた結果が災害に繋がるのです。だからこそ自然災害への対策は、地盤対策が重要なポイントになります。

日本の都市のほとんどは沿岸部の低地に位置し、自然災害を受ける可能性が高いことを認識しなければなりません。もちろん日本が誇る高い施工技術で、ある程度の減災は可能かもしれませんが、国内の全ての河川、道路、インフラに対してハードによる防災対策を施すのは国家予算上不可能でしょう。だからこそソフト対策が必要となってくるのです。自治体にIT技術を導入し、情報を発信することもソフト対策になります。例えば、豪雨による斜面の土砂崩れ災害を防ぐために斜面をモニタリングして、崩壊危険箇所を前兆現象として把握し、この斜面はこれ以上雨が降れば、壊れる可能性があるので、そうなる前に避難情報を出すという具合です。
地盤をモニタリングすると、大雨で雨水が地中に浸透して、地下水が上がり、それに伴って地盤の水圧も上がって、斜面が弱くなり、やがて斜面の崩壊につながることがわかります。地下水が上がると、どこかで少しずつ斜面が崩れるという小さな変化が起きています。地盤の中をしっかりとモニタリングすることで、そのような微小変化に基づいて、自治体が住民に速やかに警報をだすことで、減災・防災につながります。地盤データを基にして、地盤の危険性に応じた対応策、とくに災害発生時に向けた事前準備のサポートができればと考えています。

社会のレジリエンスを高め、国際化へと積極的に取り組む

私は自身の志として、社会的なニーズに応える研究を行いたいと考えています。磯部氏の「産」と私たちの「学」の共同研究の成果が出れば、そこに「官」も加わってもらい、研究を拡大するというビジョンがあります。産・官・学の研究で、社会のニーズに応えていくことが目標です。防災・減災もしかり、環境問題、さらに今はSDGsの時代ですから、持続可能な開発をどのように進めていくかがポイントになります。今までの考え方とは違う観点から物事を分析し、技術開発へとつなげていくこと。そして先進国である日本が開発した技術を自国のみならず、発展途上国の技術支援へとつなげ、地球全体で活用していくこと。発展途上国にも適用できるグローバルな視点で技術開発していくということをビジョンとして研究を行っています。

グローバル化が進む今の時代、日本に拘らず広い範囲で国際的な活動を行うことが一般的となっています。高いレベルの地盤工学の研究開発が行われている日本の技術を世界に広げ、日本がこの分野で国際的なリーダーシップを発揮できると信じて、今後も国際交流に貢献したいと思っています。なかでも磯部氏はグローバル思考をお持ちの方なので、海外に向けての技術サポート、情報発信、さらには国際レベルで競争していく研究者・技術者の人材育成にも共に取り組んでいければと考えています。

ハザリカ教授が今後IMAGEiに期待すること

私たち大学でできることは非常に限られています。大学では基礎研究として実験レベルの研究はできますが、大規模な解析や現場のシミュレーションという実務的なことになると、IMAGEiのような解析に強いコンサルタントの役割が極めて大きいと思います。

私達は基礎研究による色々なデータを提供させてもらいますので、IMAGEiはそれを大きなプロジェクトへの活用につなげていってもらいたいです。そうすることで私たち双方がはじめて、社会に貢献していけると思います。グローバル時代ですから、活用領域も地球規模に展開し、「IMAGEi」が全世界に認知されるようになることを願っています。